動物虐待動画等規制法の素案
2021年5月
竹村総合法律事務所 弁護士 竹村公利
はじめに
動物に対する虐待行為自体については、動物愛護法により、既に規制されています。
そのため、法的に動物虐待動画等の製造及びその提供行為を禁止する方法としては、別途に独立した法律を作成する方法と、動物愛護法に新たな条項を加える方法が考えられるかと思います。
国による規制立法が進まない場合は、各自治体の権限の範囲内で、可能であれば、条例によって規制する方法もありうるところかと思われます。
また、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」や、「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」も法規制の目的や態様としては近い法律です。これらの法律を参考にして、動物虐待動画に限らず、インターネット上の動画規制に関する法律としての在り方を検討することもありうるところかと思います。
1 【独立した新たな法律による場合】
第1章 総則
第1条(目的)
この法律は、動物虐待動画が国民の心身に重大な悪影響を及ぼすことに鑑み、動物に対する虐待行為を記録した映像に係る行為等を規制し、及びこれらの行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた国民の権利を擁護し、もって人と動物の共生する社会の実現を図ることを目的とする。
第2条(定義)
1項 この法律において、「動物虐待動画」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気
的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録で
あって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係
る記録媒体その他の物であって、【1匹または複数の生きている愛護動物をみだり
に、押しつぶす、火で焼く、溺れさせる、窒息させる、先のとがったもので突き刺
すまたはその他の方法で深刻な身体的傷害にさらされた様子】(以下、「動物虐待行
為」という)を視覚により認識することができる方法により描写した映像をいう。
2項 この法律において、「愛護動物」とは、次の各号に掲げる動物をいう。
一 牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
二 前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの
第3条(適用上の注意)
この法律の適用に当たっては、学術研究、文化芸術活動、報道等に関する国民の権利及び自由を不当に侵害しないように留意し、動物虐待動画の悪影響から国民を保護し、その権利を擁護するとの本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない。
第2章 動物虐待動画に係る行為等の処罰等
第4条(動物虐待動画等に係る行為)
1項 動物虐待動画を提供した者は、【3年以下の懲役又は3百万円以下の罰金】※罰則の重さについては要検討です。に処する。電気通信回線を通じて第2条第1項に掲げる動物虐待行為を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2項 前項に掲げる行為の目的で、動物虐待動画を製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入
し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、
同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3項 前項に規定するもののほか、動物虐待行為を行い、これを電磁的記録に係る
記録媒体その他の物に描写することにより、当該動物虐待動画を製造した者も、第
1項と同様とする。
(4項 動物虐待動画を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、 【5年以下の懲役若しくは5百万円以下の罰金】に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて動物虐待行為を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。)
※提供行為を不特定多数向けで罰則を分ける場合
(5項 前項に掲げる行為の目的で、動物虐待動画を製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入
し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、
同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。)
第5条(国民の国外犯)
第4条の罪は、刑法第3条の例に従う。
第6条(両罰規定)
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第4条各項の罪を犯したときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して本条の罰金刑を科する。
第7条(例外)
以下に掲げる行為を描写するものは、第4条を適用しない。
一 慣習的および業務上の獣医行為または農業の畜産行為
二 食料目的のための動物のと殺、または狩猟、捕獲、または漁業のための行為
第8条(教育、啓発及び調査研究)
1項 国及び地方公共団体は、動物虐待動画の視聴が国民の心身に重大な影響を与える
ものであることに鑑み、動物虐待動画の提供行為を未然に防止することができる
よう、動物虐待行為に関する国民の理解を深めるための教育及び啓発に努めるも
のとする。
2項 国及び地方公共団体は、動物虐待動画の提供等の行為の防止に資する調査研究の
推進に努めるものとする。
第3章 雑則
第9条(インターネットの利用に係る事業者の努力)
インターネットを利用した不特定の者に対する情報の発信又はその情報の閲覧等のために必要な電気通信役務を提供する事業者は、動物虐待動画の提供行為による被害がインターネットを通じて容易に拡大し、これにより一旦国内外に動物虐待動画が拡散した場合においてはその廃棄、削除等による被害の回復は著しく困難になることに鑑み、捜査機関への協力、当該事業者が有する管理権限に基づき動物虐待動画に係る情報の送信を防止する措置その他インターネットを利用したこれらの行為の防止に資するための措置を講ずるよう努めるものとする。
第10条(国際協力の推進)
国は、第4条の規定に係る行為の防止及び事件の適正かつ迅速な捜査のため、国際的な緊密な連携の確保、国際的な調査研究の推進その他の国際協力の推進に努めるものとする。
2 【動物愛護法の改正】
動物愛護法に、動物虐待動画の製造及びその提供行為を禁止する条項を新たに加える。付随的な条項は、法律全体の条文構成を考慮して加えることになります。
(例)第44条に新たに追加(第4項、第5項)
第44条
1項 (略)
2項 (略)
3項 (略)
4項 愛護動物に対する前1項、2項に関する行為を、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物で、視覚により認識することができる方法により描写した映像を製造し、当該映像を提供した者は、【3年以下の懲役又は3百万円以下の罰金】に処する。電気通信回線を通じて前1項、2項に掲げる行為の様子を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
5項 前4項において、「愛護動物」とは、次の各号に掲げる動物をいう。
※動物愛護法の旧第44条第4項と同一の動物例
本素案は、動物虐待動画の規制に向けた議論の「たたき台」として作成したものです。動物虐待動画の法的規制に向けた動きが促進され、動物虐待動画製造の抑制になることを願います。
特に、虐待動画の対象となる動物の範囲や、製造・提供行為の内容、虐待動画の調査や運用の方法、罰則の定め(重さ)について、たくさんの議論が必要であると考えています。
動物虐待動画にとどまらず、インターネット上の各種動画や動画プラットフォームについて、法規制の要否の議論が必要であると思いますので、そうした議論の参考にお使いいただければ幸いです。
以 上
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